Vol.4 穂垂ル里山農場

「蛍の里」と呼ばれる、山に囲まれた笠間の盆地で米作りに取り組む「穂垂ル里山農場」(ホタルサトヤマノウジョウ)の生駒祐一郎さん。ご自身の活動や、上郷地域うまい米づくり研究会として2017年度デザインセレクション(以下、セレクション)選定の「酒米田んぼオーナー制度」を通して伝えたいことをお話いただきました。

IMG_4229.jpg

▲右 穂垂ル里山農場の生駒さん。酒米オーナー田んぼの前で。左はデザインコーディネーター西條(聞き手)。

1万5千年の里山の暮らしを次世代につなぐ「酒米田んぼオーナー制度」

Q1 「酒米田んぼオーナー制度」のアイデアや紹介のパンフレットなどは革新的で洗練されています。もともと農業をされていたのですか?

生駒 実はUターンです。6年前、35歳のときに戻ってきました。
 それ以前は、IT企業でWEBアプリケーションの開発や企業への提案を行っていました。日進月歩で生き馬の目を抜く業界ですから少々疲れたこともあり帰郷しましたが、まだ家業を継ぐには早いと思い、ITから目先を変えて建築業界に転職しました。というのも、家業を継ぐ前に、農業に新しい風を入れるスキルを身につけたいと思っていたからです。再就職した建築業界では集客プロデュースに従事し、大きなイベントなども手がけました。こうしたこれまでの経験はすべて今の仕事、例えば企画立案や情報発信の仕方に生かされています。

 私は今、笠間の山並みを眺めながら稲作を行なっていますが、この地域の稲作はなんと1万5千年前から始まっていたようです。縄文時代ですね。子どもの頃、稲作が始まったのは弥生時代と習っていたので驚きました。その頃から連綿と稲作が続けられ、この里山の風景が形作られてきたわけです。そして、その歴史の先端に私がいます。そう思うと、次世代へ確実につないでいかなければと、責任を感じますね。

IMG_4223.jpg

▲「穂垂ル里山農場」の周りには山並みが広がる。

Q2 セレクションとの出会いのきっかけを教えてください。

生駒 セレクションの存在はずいぶん前から知っていました。茨城のオシャレな、というか、コンセプトのあるショップやカフェに入ると、必ずと言っていいほど、セレクションの選定カタログが置いてありましたから。
 選定にチャレンジしようと思ったのは、実家の農業を継ぎ、「酒米田んぼオーナー制度」の運営を始めてからです。笠間の農業者や食品関連企業など42事業者で立ち上げた「笠間アグリビジネスネットワーク協議会」の勧めからでした。

―そしてその「酒米田んぼオーナー制度」が2017年にセレクション選定になりました。

生駒 酒米田んぼオーナー制度は、田んぼオーナーやイベント参加者に笠間に通ってもらい、共感を持って、この豊かな里山づくりに加わってもらう仕組みです。地元酒蔵の磯蔵酒造さんとコラボして、酒米づくりから地酒の仕込みまで体験し、最終的には自分たちで作った日本酒「人人」を持ち帰ってもらいます。
 数年開催し、恒例化してきましたが、それはマンネリ化の一歩手前とも言えます。ここでセレクションにチャレンジして選定されれば、参加するオーナーさんたちのモチベーションアップにもつながると思いました。
 実際、選定を受けると、オーナーさんたちは「おおーっ!」と喜んでくれました。

IMG_4194.jpg

▲事務所には、セレクション2017の選定証やオーナー制度のポスターが。

Q3 セレクションに選定されてまだ1年ですが、変化は感じますか?その他、セレクションをどのように活用していますか?

生駒 オーナーの数は今年も少し増えました。話のきっかけにもなります。
 この日本酒「人人」は他のどこでも手に入らない「自分が作った酒」。このプレミアム感は自慢したくなります。オーナーさんたちが発信者になってくれるというわけです。オーナーさんの3割くらいは県外の方で、最も遠いところですと、香港。海外にも発信できたことになります。
 また、パンフレットや「人人」につけるタグにもiDマークを入れました。iDマークを知っている人からは「選定されたんだね!」と、知らない人からも「これは何のマーク?」と話が弾んでいます。もちろん、取引先でも話題になっています。

IMG_4207.jpg

▲2018年のタグの赤は、iDマークの赤を採用。裏面にはiDマークが入っている。

Q4 セレクションに求めることは何ですか?

生駒 こうしたセレクションにはプレミアム感が重要です。選定は厳選し、乱発しないことを望みます。
 そして、iDマークの知名度アップをお願いします。選定事業紹介のために配れるアイテムの拡充もしていただければなと。表彰式でいただいた選定カタログをPR用に展示していますが、「閲覧用」とでも書いておかないと、最後の1冊まですぐになくなってしまうんです。それだけ興味関心が高いとも言えますね。

Q5 では最後にこれからの展望をお聞かせください。

生駒 どのような事業も継続こそが重要で、しかもそれが難しい。セレクションのお墨付きは継続の力になります。
 なんといっても、1万5千年の里山づくりのリレーを引き継いだんですから、いかにして継続していくかは大きなテーマです。現在、この地域で農業に従事している人は高齢化が進み、60歳以下は2人しかいません。若手の育成が課題ですね。現在、委託も含めると50haを耕しています。規模を拡大し、法人化して若者を雇用していきたいと思います。若者が目指したくなる魅力ある農業をやっていきたいですね。
 そのためには、単なる稲作農家ではいけない。自然環境を守り、里山を次世代につないでいく、農作業と密接に関わる民俗文化を伝承していく、価値ある農業を若者たちに示したいと思います。
 元来、日本の季節の年中行事は農作業のサイクルと直結しています。それを、ここに何度も足を運んで体験して欲しい。私は米だけではなく、「農村の暮らし」を伝えたいと思っています。

IMG_4217.jpg

(掲載 2019.3.5)

●プロフィール

IMG_4239.jpg

穂垂ル里山農場 お米の生産者 生駒祐一郎

穂垂ル里山農場
笠間市上郷「蛍の里」と呼ばれる、山に囲まれ天然の蛍が飛び交う場所で、コシヒカリを中心としたお米作りを行なっている。「上郷地域うまい米づくり研究会」を運営し、安心安全な米作りと里山保全に取り組む中で、「酒米田んぼオーナー制度」を2016年度より立ち上げる。