Vol.3 リトルピアニスト株式会社・楽着物工房 株式会社明日櫻

今回は、創業のきっかけがご家族のニーズであったり、同じ2015年に初めてデザインセレクション選定、さらにグッドデザイン賞も受賞と共通点も多い、リトルピアニスト株式会社の倉知さんと、楽着物工房 株式会社明日櫻の淺倉さんに、対談の形でお話をお伺いしました。

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▲右から、リトルピアニスト株式会社の倉知さん、楽着物工房 株式会社明日櫻の淺倉さん、デザインコーディネーター西條(聞き手)。

家族のニーズからスタート、世界にはばたく女性起業家たち

Q1お二人とも、創業のきっかけがご家族のニーズであったとのことですが、開発の経緯とセレクションを知ったきっかけから教えてください。

倉知 ピアノ演奏用のシューズは娘のために作りました。娘がピアノのペダルを踏みづらそうにしているのを見て、専用シューズを探しましたが見つからず、ないのならば私が作るしかないと決意しました。ペダルを精密にコントロールでき、しかもペダルから伝わる微かな感覚を確実に足裏に伝えてくれること、さらにステージ上で足音を響かせないことなどの機能を持たせようとしました。

 いばらきデザインセレクション(以下、セレクション)との出会いは、その試作品の試験のため茨城県工業技術センター(現 茨城県産業技術イノベーションセンター)を訪れたときのことです。置いてあったチラシの中にセレクションの応募要項がありました。私は「出会ったものは全部挑戦する」がモットーですので、ピアノシューズ完成後、早速応募しました。

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▲リトルピアニスト㈱のピアノシューズ。世界初のピアノ演奏用シューズとして、2015年セレクション選定、グッドデザイン賞受賞。



淺倉 車椅子生活を送ることになった祖母のために生まれたのが、車椅子用着物「早咲羅」です。
 これからは老人介護施設で車椅子での生活…ということになったとき、祖母が「もう着物は着られないわね」と、とても寂しそうに呟きました。そんな祖母を元気にしてあげたい、明るくしてあげたいと強く思いました。そこで、車椅子のまま着られる、しかも着付けの知識がない介護者でも、座ったまま、あるいは横たわったまま着せることのできる着物を作りました。

 セレクションとの出会いは、グッドデザイン賞の応募説明会の資料の中にセレクションの応募要項も入っていたのがきっかけです。このとき初めてセレクションを知りましたが、グッドデザイン賞にエントリーするならセレクションも一緒にと思いました。

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▲楽着物工房 ㈱明日櫻の車椅子用着物「早咲羅」。優れたユニバーサルデザインとして高評価、2015年セレクション選定、グッドデザイン賞受賞。


Q2 セレクションに選定されたのちは、どのようにそれを生かし、展開されましたか?

倉知 リトルピアニスト株式会社のホームページにセレクション選定を明記したり、選定カタログをお店に置いたりして、PRに活用しました。ビッグサイトでの「グッドデザイン Biz EXPO2017」に、デザインセンターがブース出展した際に、選定者の一人として参加するなど販路拡大にも利用させていただきました。
 やはり、公的機関の「お墨付き」をいただいたというのは大きな意味があります。このデザインが自己満足ではなく、人や社会の求めるものであるという証になりますから。

淺倉 「iDマークって何?」と興味を持ってもらえますね。「地元茨城県」という枠の中で興味を持っていただき、取引につながることもあります。セレクションは地元に根ざし、地元でしかできないデザインを牽引していく存在だと思います。私はもともとプロダクトデザイナーですが、同業の中でGマーク(グッドデザイン賞のマーク)はすでに周知されているので、それを入口にiDマークを説明すると、非常に強い興味関心を持ってもらえますね。

―審査会でも、セレクションの審査項目「地域性」と「社会的ニーズ」はとても重視されていると感じます。

倉知 セレクション表彰式での交流会も活用しています。セレクション審査委員である藤代氏から「ヒールは細い方が美しい」などアドバイスをいただいたり、同じく蓮見審査委員長からは「男女兼用もいいのではないか?」とアドバイスをいただいたりしています。もちろん、すぐに商品デザインに反映しました。
男女兼用シューズは、ピアノシューズの継続的な進化を評価いただき、2018年度セレクションで「シリーズ選定」をいただきました。(選定詳細

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▲上:ヒールのあるコンサート用ピアノシューズ、下:男女兼用シューズ



淺倉 交流会ではものづくりをしている女性たちとも出会うことができます。元気な方が多く、一人ひとりがパワースポットのよう。勉強させていただくだけでなく、エネルギー交換をさせていただく感じです。
 また、問題に直面したとき、「彼女ならどうするだろう」と考えることで、突破口が見えてくることもあります。
 このようにセレクションがつないでくれた多様な方々とのご縁で今に至ると感謝しています。

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画像の説明

▲最新の「早咲羅シリーズ」。海外の方に、気軽に着物を楽しんでいただくきっかけにも。

Q3 これからのセレクションに望むことは何ですか?

淺倉 もっと選定案件について詳しく紹介した選定カタログが欲しいですね。というのも、ものづくりの裏側を紹介して欲しいのです。私は「見えないところにものづくりの本質がある」と思っています。誰もが使えるデザインが誕生した裏側には、熱い思いと並々ならぬ試行錯誤の歴史があるはずです。その背景からこそ学びたいと思います。

倉知 その通りですね。そして、次へのステップアップのための支援、とくに経済的な支援もお願いしたいと思います。実際、そうした支援がある地域で登記しようという事業所もあると聞いていますから、新しいものづくりの会社を茨城に集めるのにも一役買うのではないでしょうか。

Q3 お二人ともこれまでになかったものを世に送り出しました。これからの展望をお聞かせください。

倉知 実は明日(※取材時)から当社の株式会社としての第2期がスタートします。その一歩目を踏み出すのは上海で開かれる展示会です。リトルピアニスト株式会社としてのブースを出展します。
 茨城から世界へとピアノ演奏用シューズを広めていきたいと思います。
 そのとき、靴の機能面だけを見ていては不十分です。どのような衣装と合わせるのか、「全体をデザインする」という視点を持ち合わせたいと思います。
 また、世界進出には各国で特許を取る必要があります。この点もクリアしなければなりませんね。

淺倉 海外展開についてはショーを開くなど考えていきたいですが、基本的に日本を訪れる外国の方に着ていただきたいです。日本に留学されていたアメリカのシラキュース大学でバリアフリーを研究されている教授や学生の皆さんが「大柄な外国人でもこの着物だったら大丈夫ね」と太鼓判を押してくれました。日本のおもてなしの1つとして、外国の方に着せてさし上げたいと思います。ユニバーサルデザインを追求してきたら、その奥深さや可能性に気づきました。この着物を通して茨城の観光産業にも貢献できるかもしれません。地元を元気にしたいですね。
 また、着物を着ることを諦めた方が一度この着物を着ると、表情がパッと明るくなり、ひいては生き方まで前向きに変わります。そうした、前向きな生き方に関わるアイテムとして世界に広めたいと思います。

(掲載 2019.2.19)

●プロフィール

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リトルピアニスト株式会社
代表取締役 倉知真由美

リトルピアニスト株式会社
ペダリングにこだわった、世界初のピアノ用シューズ開発メーカー。『舞台の上で自分の実力を十分に発揮したい。』というピアニストからの声に真摯に応じ、進化を続ける。


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楽着物工房明日櫻 株式会社明日櫻
代表取締役 淺倉早苗

楽着物工房 株式会社明日櫻
たった5分で着ることができる車椅子用着物のオーダーメード、レンタルを手がける。和装をどんな方にも楽しんでいただきたい、という思いを胸に、たくさんの方に笑顔を届けている。