Vol.6 株式会社吉田屋

天保元年(1830年)創業の老舗梅干し店。未来を見据え、県内産梅ブランド「常陸乃梅」を立ち上げ積極的な事業展開をされる、8代目の大山壮郎さんにお話をお伺いしました。

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▲株式会社吉田屋 八代目 大山壮郎さん、「ume cafe WAON」の前で

東日本大震災を契機に
故郷を元気づけたいという思いがこみ上げて

ー大山さんは県内産の梅ブランド「常陸乃梅」プロジェクトでの商品開発やカフェ「ume café WAON」の運営、県内の酒造会社とコラボレーションした梅酒の開発、高校生が商品企画を行うプロジェクトへの参画など様々なことに意欲的に取り組んでいらっしゃいますね。
 そもそもIDSを知ったきっかけは何でしたか。

大山 同業者の受賞です。店先でiDマークを見て、「こういうものがあるのか!」と。そこでチャレンジすることを決めました。
 IDSに限らず、「ume café WAON」など私のチャレンジが始まったのは東日本大震災が契機となっています。私はそれまでは代々受け継がれてきた事業を継続するだけでした。しかし、震災で傷ついた故郷を見て、何か新しいことをして活気づけたいと思ったのです。
 その時、思い出したのは大学時代に東京で見た商業界での洗練されたデザイン。グランスタしかり、ヒルズしかり、原宿しかり、洗練され、凝ったデザインのものが次々と生まれていました。

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大山 時を同じくして、JRが地域活性化を目指す地域再発見プロジェクトの一環として、生産者が商品と地域の魅力を発信するショッププロジェクト「のもの」をスタートさせました。「のもの塾」が大洗で開かれた際、そこで観た「アオモリシードル」のデザインワーク、プロモーションの仕方が心に刺さりました。「これをやらねば!」と使命感に燃えましたね。
 そして、2014年に「常陸乃梅」で初チャレンジ。初めての県内産梅ブランドの立ち上げプロジェクトです。
 私はそれまで社内では営業担当でしたから商品開発については手探り状態だったため、IDSにチャレンジしてきた先輩たちから多くを学ばせてもらいました。

ブランディングにデザイン思考は欠かせない
IDSで学んだこと

ーそうでした。最初に選ばれたのは「常陸乃梅」でしたね。

大山 2014年です。初めはパッケージデザインだけで応募するつもりでしたが、ブランディングプロジェクトとしてチャレンジしました。ブランディングにもデザインが欠かせないということをこの時に学びました。
 「常陸乃梅」は品種ではなく、県内初の梅ブランドの名称で、県内産の梅を使った加工品の総称です。これまで県内産の梅で作った「オール茨城」の梅加工品は1つもありませんでしたし、オール茨城にして売り出そうという試みもありませんでした。このプロジェクトでは、農家さんと連携し、新しい価値を作り、情報発信を始めました。その価値づくりこそがデザインです。
 このプロジェクトを手がける前に私は梅干しの個包装にチャレンジしましたが、これは新しい概念の提案でもあります。これによって梅干しとの付き合い方が変わります。持ち歩いて、食べる。人にお菓子のように配る。そのため見た目だけでなく、扱いやすいパッケージにこだわりました。
 デザイナーや包装素材の専門家らと連携し、梅をさらに次のステージに進めていきたいと思っています。

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▲梅園で梅農家の皆さんと


ー梅干しの写真などを使わないパッケージが「梅の新しい可能性」を予感させて良かったです。審査員たちの「応援しよう」という気持ちが「奨励」という形になったのだと思います。続いて昨年度2018年に選定を受けたのが「梅酒八代セット」ですね。

大山 「梅酒八代セット」は石岡市の廣瀬商店さん(日本酒「白菊」醸造元)とのコラボレーション商品です。
 実は物産協会の青年部の会合で同席し、お酒の席だったのにその日お互いに飲めないどうしで盛り上がり、いろいろ話すうちに「原材料から酒造までオール茨城の梅酒ってないよね、じゃあ作ろう」と。そして、お互いに8代目だったので「梅酒八代」とネーミングしました。

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▲IDS2018選定 梅酒八代セット

新しい価値を作る人たちが集い
発想が生まれる場としての「ume café WAON」

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▲「ume café WAON」店内


ー今は商品開発だけでなくカフェ「ume café WAON」へと展開を広げていますね。

大山 「常陸乃梅」を知っていただくアンテナショップですが、交流の場、県内の食品を扱う、あるいは新しい価値を作り出そうとする人たちが集う場になっています。
 ある日、ここに生産者やレストランの店主らが偶然居合わせて、話が弾む場面がありました。それを見た時、「この風景だ!私がこのカフェに求めていたものは」と胸が熱くなりました。
 IDSの選定を受けてからというもの、梅干し屋なのに「商品開発をする人」ではなく「展開する人」として認識されています。呼ばれるイベントも変わりました。単に商品を並べる物産展ではなく、フードイベントへのオファーが増え、「何か新しい提案をして欲しい」という期待を感じています。

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▲「ume café WAON」で提供される9種類の梅干し

ーデザインの役割を体現されていらっしゃると思います。IDSには今後、どのような期待をしたいと思いますか。

大山 IDSを受賞することは名誉なこととして浸透し始めています。認知度は上がってきています。モノづくりコトづくりをする人たちのモチベーションになりつつあると思います。
 しかし、まだ業界内にとどまっている感も否めません。早く消費者に浸透して欲しいと思います。
 そのためにはIDSにどのような価値があるのかを知らせて欲しいですね。iDマークもGマークのように周知させて欲しいです。
 当社は実はあと10年ほどで創業200年になります。ここでもう1回ブランディングを見直したいと思います。200年企業として社会に何を問い、提案していくのか。
 パッケージデザインも見直し、ブラッシュアップします。すでに筑波大学芸術学群の皆さんに携わってもらっています。キーワードはSDGs。環境に優しく、脱プラスチック包装を紙屋さんと共同開発しています。もちろん、ビジュアル的にも洗練されたものを開発します。

ーこれからがますます楽しみですね。ありがとうございました。

●プロフィール

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八代目 大山壮郎 
株式会社 吉田屋

創業天保元年(1830年)から続く漬物梅干専門店。茨城県初の梅ブランド「常陸乃梅」を茨城の梅農家達と立ち上げ、全国初の梅専門カフェ「ume cafe WAON」を拠点に、茨城の梅を世界に発信する取り組みを行う。