Vol.2 育良精機株式会社

第二回目は、これまでに数多くの選定を受けているものづくり企業の育良精機株式会社のお二人に、ものづくりデザインのマインドをお伺いしました。2018年度セレクションでは「高圧クーラント装置+自動棒材供給機バートップシリーズ」がシリーズ選定、ポータブルバッテリー溶接機ライトアークISK-Li160A」が選定となりました。

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▲左から、育良精機開発部の廣沢さん、同じく代表取締役の曽根さん。右はデザインコーディネーター西條(聞き手)

「異業種交流型開発企業」、セレクションへの挑戦を通してデザイン思考を研ぎ澄ます

Q1 セレクションとの出会いのきっかけ、デザインに着目するようになった理由は?

曽根 育良精機株式会社を含む広沢グループは、いろいろな業種が集まった企業グループです。製造、流通、教育・健康の3つの部門で、それぞれ個性的な企業がいくつも集まり、ダイナミックに融合して、新しい技術や価値を提案しています。
 その中でとくにデザインの力を重視しているのは、製造です。自社ブランドを持つ5つの部門として、工作機器、工具類、金庫、書庫・ロッカー、歯科機器がありますが、それらのプロダクトデザインを、デザイン部門が担っています。

 各部門には長年の基礎技術と業界技術の蓄積があります。しかし、刻々と変化するユーザーのニーズに応えていくには、新しい技術と新しい発想というプラスアルファが必要なのです。私たちは部門間の交流でその「基礎技術と業界技術」の限界を超えていきます。
 各部門の設計担当者とデザイン部門は1つのフロアに集まり、通常はそれぞれに仕事をしていますが、必要となれば、例えば工作機器の設計をしている者が歯科機器の設計をしている者と情報交換し、技術と発想のブレイクスルーを起こすんです。
 1つの建屋の中のグループ企業間で異業種交流ができるというわけです。それを当社では「異業種交流型開発企業」と呼んでいます。

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▲曽根さんのものづくりに対するビジョンは明快だ

廣沢 それでもやはり自社内だけでは行き詰まることもあります。実は2009年度セレクションに選定された工作機械も当初、カラーリングについてはなかなか決定できずにいました。論理的な根拠が乏しかったからです。そこでデザインセンターに相談することにしました。発想を変える考え方のプロセスを学ぶためです。
 そして、「工作機械と言えば青」という固定観念から脱却し、ラベンダー色に行き着きました。これがセレクションとの出会いであり、毎年応募にチャレンジするきっかけとなりました。

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▲年間の各部門開発製品や、セレクション選定品を紹介した社内ポスター(※写真1)

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▲セレクション応募に関するやりとりなどが記録されている書類 

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▲2018年度シリーズ選定「高圧クーラント装置+自動棒材供給機バートップシリーズ」。同じくグループ会社である日本アイ・エス・ケイ株式会社 デンタル事業部でも同年別製品でシリーズ選定。

セレクションへの挑戦は商品開発力のバロメータであり、社会のためのモノづくりの指針

Q2育良精機さんでは、グループ会社も含めるとこれまでに多くのご応募と選定を受けています。セレクションに毎年応募してくださっている理由を教えてください。

曽根 当社は自社ブランドを持つメーカーです。新しい商品をいかに開発していくかが重要です。1つの商品の成長カーブが伸び盛りなうちに次の成長する商品を開発するという繰り返しが企業を存続させます。ですから、新しい技術と発想で開発した製品を携えてセレクションに挑戦することは、もはや毎年の恒例行事です。
 また、セレクションへの挑戦は、当社の開発力のバロメータでもあります。世の中に問うべき製品をどれだけ輩出することができるか。選定を受けるということは、それだけ社会にメッセージ性のある製品を産み出せたということです。

ー自身がデザイン、携わった製品が紹介されるのは、誇らしくもあると同時に、他の部門のデザインも気になるのではないでしょうか。

曽根 近年このように、1年間にどれだけ製品開発できたかをポスター(※写真1)にして、社内に掲示しています。自分たちの開発力の見える化ですね。
 セレクションもそうですが、各部門のデザイン開発力の競争の場ともなりますよ。また、企業グループ内でお互いに切磋琢磨するだけでなく、セレクションに選定された他企業のデザインに触れて刺激を受け、自分の仕事にフィードバックすることもできます。

廣沢 セレクションからは、工業デザインだけでなく、グラフィックから広報まで学ぶことができます。
 実はセレクション関係の書類はメールのやりとりに至るまですべて記録してファイリングしています。この記録の蓄積は将来、開発に活かすために行っているんですよ。


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▲廣沢さんは開発部のデザイナー

「お墨付き」としてビジネスを後押ししてくれるiDマーク

Q3 セレクションに求めることを教えてください。

曽根 開発には外の空気も必要です。とくに専門家の意見です。しかし、デザインコンサル料などコストはどのくらいかかるのか、専門家とのコミュニケーションはどうしたらいいのか、といった不安もあります。そこで、デザインセンターが企業と(デザインの)専門家をつなぎ、気軽に相談できる仕組み、交流できる場を作って欲しいですね。

 当社では玄関から応接室まで社内外の人の目につくところにiDマークを掲げています。これは社内の意識を高める効果もありますが、やはり「お墨付き」としてセールスを後押ししてくれる効果が大きいですね。また、当社のモノづくりに対する基本的な考え方を伝えるツールとしても有効です。

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▲工場の製造ライン。工場内も整理整頓され、品質管理が行き届いている

もっと気軽に相談できる仕組みを期待、企業コラボで新しい価値を作る

Q4これからの展望について聞かせてください。

曽根 モノづくりは機能プラスアルファの時代になりました。例えば、オフィス什器はネズミ色一色からカラフルなものになり、機能に加えて、効率やクリエイティビティが増すというプラスアルファが考慮されています。企業の差別化とは、こうした独自のプラスアルファをいかに生み出すかなのです。
 すると、独自のものを生み出せるデザイナーをいかに育てるかが重要になります。セレクションにチャレンジすることは、デザイナーの成長の指標にもなります。

 実は今、当社の「異業種交流型開発」の開発力、世の中に問う製品づくりというポリシーが見込まれて、業種の違う企業と本来の意味での異業種交流が生まれています。なんともワクワクする話です。
 こうして内部のリソースを育てながら、外部との交流も進め、新たな価値を作り続ける企業でありたいですね。

(掲載 2019.1.15)

●プロフィール

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代表取締役社長 曽根栄二(そね・えいじ)
開発部デザイン担当 廣沢雄大(ひろさわ・ゆうだい)

育良精機株式会社
茨城県つくば市。広沢グループに属する、省力機器事業部と工具事業部からなるものづくり企業。同じくグループ会社でデンタル事業部を擁する日本アイ・エス・ケイ株式会社の「訪問診療用ユニット かれん EX」は2018年度シリーズ選定。