Vol.1 社会福祉法人ユーアイ村

事業をデザインする「ひと」に迫る本企画の第1回目は、2017年度にデザインセレクション部門で選定となった「認知症すごろく(456)」をデザインした、社会福祉法人ユーアイ村の理事長藤澤さんとデザイナーの平井さんのお二人にお話をお伺いしました。

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▲左から、ユーアイ村理事長の藤澤さん、ユーアイデザイン デザイナーの平井さん。右はデザインコーディネーター西條(聞き手)

デザインで福祉業界全体を底上げしたい

Q1 ユーアイ村は組織内にデザイン部門をもつ、全国でも珍しい福祉法人ですが、デザインに着目したきっかけはなんですか?

平井 社会福祉法人ユーアイ村は高齢者福祉、障害者福祉、保育の各部門があり、特別養護老人ホーム「ユーアイの家」や、認可保育所「ユーアイほいくえん」、ケアマネジャーを派遣する「ユーアイケアプラン」などの複数の福祉施設を運営しています。各施設のデザインを担当する部門が、同じユーアイ村グループにある株式会社ユーアイデザインです。

ーグループの中にデザイン会社が存在するんですね。

平井 その中で、ユーアイデザインは異色の存在に見えるでしょう。
 しかし、インハウス(組織内)でデザイン部門を持つことは、業界にとっても大きな意味があると確信しています。
 福祉事業は補助金の助けを受けていますが、独立採算の別企業があることで、補助金の制約にとらわれず、自由度を持ちながら福祉デザインで価値貢献することができます。デザインで福祉全体を底上げしたいと思っています。

藤澤 この構想の始まりは、共にフェイスブック上の「友達」たちと手がけた「がんばっぺ茨城プロジェクト」(2011年度セレクション審査員奨励選定、震災復興にに向けたチャリティープロジェクト)までさかのぼります。デザインの持つ「共感を呼ぶ力」に驚いたことがきっかけでした。

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▲藤澤さんが着るのは、ユーアイ村のオリジナルTシャツ。「Do one more, what you can.(自分でできることを一つでも多く)」はユーアイ村の理念

平井 組織内でデザイン部門を持つ利点は、時間差なく迅速にトライアンドエラーでアイデアの具現化と改善ができることです。現場の福祉スタッフは利用者のニーズに直に触れているため、とてもいいアイデアを持っています。それをデザインのプロの知識と技術で洗練させていきます。試作ができたら、すぐに現場で使ってもらい、再び現場の意見を反映させてデザインを改善する。このキャッチボールが実にワクワクしますね。
 デザインが良くてもデザイナーだけでは社会にインパクトを与えることはできません。デザインを生むデザイナーと、デザインを活用する事業主が車の両輪となり、同じ速度で同期しなければ前へは進めないのです。
 それが実現しているのは、藤澤理事長の意思と行動力の賜物だと思います。

藤澤 とはいえ、スタートから7年経って、ようやく波長が合ってきたなという感じです。
 当初、デザインにお金をかけるということに、現場からは反発もありました。これまで自分たちでやっていましたから。しかし、平井さんと協業し「餅は餅屋」だと身に染みてわかりましました。職員もデザインの力を実感し、セレクションで社会的評価も得るようになった今は、誰も文句を言わないどころか、積極的にデザインに関わろうとしてくれています。「ああして欲しい。こういうものが欲しい」といった声がどんどんユーアイデザインに寄せられます。

平井 現場のアイデアが7とすると、それを8や9まで高めるのはプロの力です。
 本当はもっと洗練させたいのに、現場はスピードが命ですから、藤澤理事長は私の手元から作品を持って行ってしまう(笑)。しかしそれは、走りながら直せばいい、ということなのです。

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▲2017年度選定「認知症すごろく(456)」(水戸市東部高齢者支援センターとして選定) 認知症を学ぶすごろくと、その活動がソーシャルデザインとして評価

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▲「認知症すごろく(456)」は自治体などに展開され、地域社会の認知症の理解促進・ネットワークづくりに貢献

勝手に自走できるツールが理想 「問題を解決する仕組みづくり」というデザインの価値に光をあてる

Q2セレクションに選定された後、そのことやデザインをビジネスにどう活かしていますか?

藤澤 「タスカルカード」が2014年奨励、「認知症すごろく(456)」が2017年選定を受けました。
 「タスカルカード」はタスクを可視化するとともに、誰もが楽しく仕事できるような仕組みにしました。これが評判を呼び、福祉分野での講演を依頼されることが急増しました。
 講演ではデザインを取り入れたことによる現場の変化についてお話していますが、聴いてくれた同業の方からは「どのようにしてデザイナーを見つけるのか?料金体系は?要望をどう伝えたらいいのか?」などの質問を受けます。福祉の現場でのデザインのチカラへの期待の高さがうかがえます。

平井 「認知症すごろく」は、地域の人や家族が認知症について遊びながら学べるボードゲームです。
 高齢者福祉はもはや家族だけで担えるものではありません。社会化、つまり社会全体で取り組む課題としなければなりません。そのときに広く誰もが認知症を理解する仕組みが必要。そのための「認知症すごろく」です。
 「認知症すごろく」はもともと(法人の拠点である)水戸市版として作りましたが、今や県の内外にご当地版が誕生しています。わが家版を作った方もいます。このように「認知症すごろく」の遊び方を覚えた方が推進役(ファシリテーター)として、自身のコミュニティに広げていくことでネットワークができ、高齢者福祉が社会化していくのです。
 この仕組みづくりがデザインです。

 私が目指しているのは、「デザイナーがいないデザイン」。「タスカルカード」も「認知症すごろく」も、デザイナーがいなくても勝手に自走できるツールです。見栄えがステキなだけではダメで、楽しく動けるプラットホーム、つまり仕組みを作らないと、長く続かないし、マスにもなりません。マスにならなければ問題解決に至らないのです。

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▲ユーアイの家の入口に飾られていた選定証

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▲2014年度奨励「タスカルカード」によるタスク共有システム 皆が笑顔で働ける仕組み

誰もがデザイナー。デザインとは毎日をワクワクさせること

Q3 セレクションに期待すること、デザインの力に期待することは何ですか?

平井 「タスカルカード」では、この仕組みづくりの価値をもっと評価して欲しかったですね(笑)。
 デザインとは特別なことではなく、誰もが無意識に行なっていることです。例えば、皆さんも仕事だけでなく家事をしていて、もっと効率的にやるにはどうするか?もっと楽しくやるにはどうするか?と考えていると思います。それが実はデザインなんです。
 ユーアイの家でもみんながデザインに対して、言いたがりになります。それだけデザインにコミットメントしているわけですね。

藤澤 ユーアイ村の理念は、「自分でできることを1つでも多く」という「自立支援」です。でも、この言葉だけでは何百万回言っても浸透は遅々として進みません。ところが、平井さんが欧文にしてカッコイイTシャツにしたところ、たちまち浸透し、職員ばかりか保育園に通う子どもたちまで「着たい」と言い出しました。Tシャツは販売しているのですが、今年の夏はなんと250枚も売れたんですよ。伝えたいメッセージをデザインのチカラを使って形にしたことで、共感を呼ぶことができました。
 このように、わたしたちはデザインのチカラを日々感じています。

(掲載 2018.12.27)

●プロフィール

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理事長 藤澤利枝(ふじさわ・りえ)
ユーアイデザイン 平井夏樹(ひらい・なつき)

社会福祉法人ユーアイ村
平成3年創業、平成13年社会福祉法人化。「Do one more, what you can.─自分でできること、ひとつでも多く」を合言葉に、地域の人に開かれた、人が集まってくる社会福祉法人をめざし、障がい福祉、介護、保育の包括的な支援を行う。